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■ 厚生労働省が作成した「妊娠期の至適体重増加チャート」 (2006年 05月 26日 10:20)
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 厚生労働省は、妊娠期における体重増加量について、一律に抑制されることによって低出生体重児が増加するとの懸念から、非妊娠時の体格区分(やせ、普通、肥満)別に「妊娠期の至適体重増加チャート」を作成し「妊産婦のための食生活指針」として公表しています。1)
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 厚生労働省は平成18年2月1日付けで『「妊産婦のための食生活指針」の策定について』と題する報道発表資料を発表しました。概要は次の通りです。
〔厚生労働省では、学識経験者等に参集を求め、昨年2月より『「健やか親子21」推進検討会』を開催し、その中で「食を通じた妊産婦の健康支援方策研究会」を立ち上げ、妊娠期及び授乳期における望ましい食生活の実現に向け、何をどれだけ食べたら良いかわかりやすく伝えるための指針とともに、妊婦個々の体格に応じて適切な体重増加量が確保されるよう、その目安について検討を行ってきた。
このたび「妊産婦のための食生活指針」(「健やか親子21」推進検討会報告書)として取りまとめたので、その内容を公表する。〕というものです。

 ここでは、「妊産婦のための食生活指針」(「健やか親子21」推進検討会報告書)のなかで紹介されている「妊娠期の至適体重増加チャート」の概要を以下に引用します。
 詳細については、「妊産婦のための食生活指針」(「健やか親子21」推進検討会報告書)2):http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0201-3a.htmlを御参照下さい。
本報告書のなかの関連記事は、
「妊娠期の至適体重増加チャート」について、その報告の中の 『4「妊娠期の至適体重増加チャート」について』の項、および、『5「妊産婦のための食生活指針」及び「妊娠期の至適体重増加チャート」の活用に向けて』の項の【リーフレット】をクリックして開いて下さい。

● 妊娠前の体格をBMI(Body Mass Index) で三つに分類
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
BMI:18.5未満・・・・・・;低体重(やせ)
BMI:18.5以上25.0未満 ・;ふつう
BMI:25.0以上・・・・・・;肥満

● 体格区分別 妊娠全期間を通しての推奨体重増加量
 妊娠前の体格区分:低体重(やせ);妊娠全期間を通しての推奨体重増加量 9〜12kg
妊娠前の体格区分:ふつう;妊娠全期間を通しての推奨体重増加量 7〜12kg ♯1
 妊娠前の体格区分:肥満;妊娠全期間を通しての推奨体重増加量 個別対応 ♯2
*体格区分は非妊娠時(妊娠前)の体格による。
♯1 体格区分が「ふつう」、の場合、BMIが「低体重(やせ)」に近い場合には推奨体重増加量の上限側に近い範囲を、「肥満」に近い場合には推奨体重増加量の下限側に近い範囲を推奨することが望ましい。
♯2 BMIが25.0をやや超える程度の場合は、おおよそ5kgを目安とし、著しく超える場合には、他のリスクを考慮しながら、臨床的な状況を踏まえ、個別に対応していく。

● 体格区分別 妊娠中期から末期における1週間当たりの推奨体重増加量
 妊娠前の体格区分:低体重(やせ);妊娠中期〜末期 推奨体重増加量 0.3〜0.5kg/週
 妊娠前の体格区分:ふつう;妊娠中期〜末期 推奨体重増加量 0.3〜0.5kg/週
 妊娠前の体格区分:肥満;個別対応
*体格区分は非妊娠時の体格による。
*妊娠初期については体重増加に関する利用可能なデータが乏しいことなどから、1週間あたりの推奨体重増加量の目安を示していないため、つわりなどの臨床的な状況を踏まえ、個別に対応していく。

「妊娠期の至適体重増加チャート」のまとめとして

@体格区分別 妊娠全期間を通しての推奨体重増加量の設定について
●妊娠前における体格区分とリスクとの関連については、
妊娠前に「低体重(やせ)」に属する者は、低出生体重児分娩や子宮内胎児発育遅延、切迫早産や早産、貧血のリスクが高まる。
妊娠前に「肥満」に属する者は、糖尿病や巨大児分娩、帝王切開分娩、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)のリスクが高まる。
●妊娠期における体重増加量とリスクとの関連については、
妊娠期に体重増加量が著しく少ない場合には、低出生体重児分娩や切迫流産、切迫早産のリスクが高まる。
妊娠期に体重増加量が著しく多い場合には、前期破水や妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、巨大児分娩、帝王切開分娩、分娩時の出血量過多、羊水混濁・胎児心拍数異常のリスクが高まる。
●妊娠前における体格区分と妊娠期における体重増加量とのリスクの関連については、
妊娠前に「低体重(やせ)」「ふつう」「肥満」のいずれの体格区分に属していても、妊娠期の体重増加量が少ない者では低出生体重児のリスクが高まる。
妊娠前の体格区分が「低体重(やせ)」に属する者で妊娠期の体重増加量が多い場合には、帝王切開のリスクが高まる。
妊娠前の体格区分が「ふつう」に属する者で妊娠期の体重増加量が多い場合には、heavy-for-dates児(在胎週数に対して出生体重が重い児をいう。)や帝王切開のリスクが高まる。
妊娠前の体格区分が「肥満」に属する者で妊娠期の体重増加量が多い場合には、分娩時の出血量が過多になるリスクが高まるとされる。

妊娠全期間を通しての推奨体重増加量は「低体重(やせ)」の場合は9〜12kg、「ふつう」の場合は7〜12kgとし、肥満の場合は、個別に対応していくこととし、BMIが25.0をやや超える程度の場合は、おおよそ5kgを目安とし、著しく超える場合には、他のリスク等を考慮しながら、臨床的な状況を踏まえ、個別に対応していく。

A体格区分別 妊娠中期から末期における1週間あたりの推奨体重増加量の設定について
 体格区分が「低体重(やせ)」、「ふつう」の場合、妊娠中期から末期における推奨体重増加量を0.3〜0.5kg/週とし、「肥満」の場合は、糖尿病や高血圧などの基礎疾患を有している場合があり、これらの基礎疾患の有無が胎児予後に大きく影響する可能性があるため、個別に対応していくこととした。
詳細については、参考文献を参照ください。
参考文献
1)厚生労働省:「妊産婦のための食生活指針」の策定について:
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0201-3.html
2)「妊産婦のための食生活指針」(「健やか親子21」推進検討会報告書):
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0201-3a.html
■ 鳥インフルエンザウイルスに対するモックアップ(プロトタイプ)ワクチンとパンデミックワクチン開発 (2006年 05月 19日 10:47)
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 鳥インフルエンザの感染が世界的な拡大をみせるなか、新型インフルエンザの世界的流行の可能性が示唆されています。対策として、抗インフルエンザ薬の備蓄とワクチンの開発が急がれています。国内のワクチンメーカー4社と国立感染症研究所などが協力し、年内の治験終了を目標にH5N1型鳥インフルエンザウイルスに対するヒト用プロトタイプワクチンの臨床試験が、我が国で始まりました。
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 厚生労働省健康局で平成17年12月に策定された「新型インフルエンザ対策行動計画」の中の参考資料・用語解説にモックアップ(プロトタイプ)ワクチンとパンデミックワクチンについて次のように解説されています。1)
「モックアップ(プロトタイプ)ワクチン:対象とするウイルス株が特定されていない場合に、モデルウイルスを用いて作成されたワクチン。主として、治験等の薬事承認を得るための申請データの作成に用いる。
パンデミックワクチン:流行しているウイルス株を用いて、作成されたワクチン。」

日経メディカル2006年3月号には、プロトタイプワクチンについて報告されています。
その概要については次のようなものです。
「今年2月、H5N1型鳥インフルエンザウイルスに対するヒト用ワクチンの臨床試験が、我が国で始まった。国内のワクチンメーカー4社と国立感染症研究所などが協力し、年内の治験終了を目標に開発が進められている。このワクチンは、一般に「プロトタイプワクチン」と呼ばれているもので、いわば試作品のワクチン。トリ−ヒト感染したウイルスに対するワクチンであり、ヒト−ヒト感染が始まったとき、つまりパンデミックの危険性が高まった場合につくる「パンデミックワクチン」のひな形となるものだ。
 プロトタイプワクチンを開発し、H5N1型ウイルスに対するワクチンとして薬事承認を得ておけば、パンデミックの際にはウイルス株を変更するだけでよく、臨床試験を省略して迅速にパンデミックワクチンの供給を開始することができる。また、試作品とはいえ、新型H5N1型ウイルスに対しても交叉免疫によってある程度の予防効果が期待できる。
 世界のどこかでトリ−ヒト感染が始まってから、パンデミックワクチンが完成するまでに、少なくとも6ヵ月かかるといわれている。
 そこで、パンデミックワクチンが完成するまでに医療関係者に対してプロトタプワクチンを接種するという事態が考えられます。
今回のプロトタイプワクチンには、従来のインフルエンザワクチンと違い、ワクチンの効果を高めるためのアジュバント(免疫賦活剤)が添加されている。これまでの研究で、アジュバントを添加しなければ十分に抗体価が上昇しないと考えられたためだ。添加される物質は、DPTワクチン*1にも使われている水酸化アルミニウム。抗体価上昇が見込める一方で、副反応にもより注意が必要になるかもしれない。」
 ヒト−ヒト感染が始まったときに、抗インフルエンザ薬による感染拡大を封じ込め、パンデミックワクチンによるパンデミック(大流行)の予防ができるよう期待されます。心配されたパンデミックは、世界保健機関ほか関係者の努力で局地封じ込めに成功し、あと1カ月を切ったワールドカップ開催が待たれるところです。
*1)DPTワクチン:ジフテリア、百日咳、破傷風三種混合ワクチンの略

参考資料
1) 厚生労働省:新型インフルエンザ対策行動計画;
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/03sankou.html
2) プロトタイプワクチン;日経メディカルNo.460,P 23,2006
■ 心房細動治療における upstream approach (2006年 04月 25日 14:09)
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 心房細動に対する治療方針は基本的に、@リズムコントロール:洞調律化とその後の再発予防を主体とする治療、Aレートコントロール:心拍数のコントロールを主体とする治療、および重要な合併症である塞栓症の予防である、とされていますが、この他に、心筋リモデリングの抑制など心房細動の発症基質を改善するupstream approachが注目を浴びていると紹介されています。1)
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 篠田暁与氏は、ACC/AHA/ESC(the American College of Cardiology/American Hart Association Task Force on Practice Guideline and the European Society of Cardiology Committee for Practice Guidelines and Policy Conferences)のガイドライン、日本循環器学会のガイドラインに基づき、標準的治療指針と使用薬剤の選択、抗凝固療法の現状と今後の指針、upstream approachの意義について心房細動の臨床像と対比し、EBMに基づいた心房細動の管理と治療を概説しているが、その中で心房細動の発症基質を改善するupstream approachについて次のように述べている。1)
「日常臨床において心房細動は非常に再発しやすい不整脈であり、心房筋のリモデリングとともに、さらに不整脈は維持しやすくなり、薬物療法を困難にしているのが実状である。
よって発症基質を改善するupstream approachが注目を浴びている。心筋リモデリングの進行にアンジオテンシンUが関与することにより、ACE阻害薬/アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)のリモデリング抑制効果が示され、最近の大規模臨床試験ではARBの心房細動の新規発症抑制効果も示されている。治療に際し催不整脈作用・心外性副作用をより少なく、患者に優しい治療を選択するため、今後は環境改善に焦点を当てたupstream治療を積極的に取り込んで行くべきと考える。」
最近、従来の抗不整脈薬やβブロッカーを、現に起こっている不整脈を停止したり、その症状を軽減する、いわゆるdowonstream治療薬、ARBを不整脈の原因となる素地の発生を予防することが期待されるのでupstream治療薬と称しています2)。
参考資料
1) 篠田暁与:心房細動の治療としての適応を考える.クリニカル プラクティス25(2)88-93,2006
2) 堀江稔:心房細動を巡る最近の話題.(http://www.shiga-med.ac.jp/education/ejournal/contrib/19 horie.pdf )
■ 医薬品医療機器総合機構の「医薬品医療機器情報配信サービス」 (2006年 04月 18日 12:40)
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 医薬品医療機器総合機構では、平成17年8月19日より最新の医薬品及び医療機器の安全性情報等を医療現場に速やかに提供することを目的とする「医薬品医療機器情報配信サービス」を開始しているが、今般、さらに本サービスを利用しやすくするため、組織又は施設ごとの複数登録を可能にするとともに配信対象の拡充を図ったと案内されています。1)
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「医薬品医療機器情報配信サービス」の配信内容については、医薬品医療機器総合機構
のホームページから閲覧できます。その主要な内容は、次のとおりです。
(1) 事業名称:医薬品医療機器情報配信サービス(平成17年8月19日開始)
(2) 事業目的:医療現場で医薬品・医療機器が適正に使用され、保健衛生上の危害発生
の防止に資するよう、最新の医薬品及び医療機器の安全性情報等を医療現場に速やかに提供することを目的とする情報配信サービスです。
(3) 配信対象機関:本配信サービスは、病院、診療所、薬局、卸売一般販売業者、製造販売業者、都道府県薬務行政機関、医療関係団体、医療関係教育機関、学会等の団体、開発業務受託機関(CRO)、治験施設支援機関(SMO)及び出版・報道関係を対象に、あらかじめ、情報提供ホームページから配信サービスの提供を希望する登録を行った方に配信されます。なお、1施設につき複数の方の登録を可能としました。
登録は「医薬品医療機器情報提供ホームページ(http://www.info.pmda.go.jp/)」の右上の『医薬品医療機器情報配信サービス』のボタンを押して中に入っていきます。
(4) 配信内容:【配信コンテンツ】
厚生労働省、医薬品・医療機器の製造販売業者又は製造販売業界団体が発出した以下のコンテンツが配信されます。
(1) 緊急安全性情報
(2) 医薬品・医療機器等安全性情報
(3) 使用上の注意改訂指示通知(医薬品)
(4) 使用上の注意改訂指示通知(医療機器)
(5) DSU(医薬品安全対策情報)
(6) 自主点検通知(医療機器)
(7) 回収情報(クラスT分)
なお、これらの配信情報コンテンツは、いずれも当機構の「情報提供ホームページ(http://www.info.pmda.go.jp/)」に掲載と同時に配信されますので、ここからも情報の入手が可能です。
(5) 配信形式:テキスト形式です。
(6) 配信方法:各情報のホームページ掲載完了後、配信対象者に対し順次配信します。
引用資料
1) 医薬品医療機器情報提供ホームページ:http://www.info.pmda.go.jp/
■ 薬物動態から見た乳幼児期および発熱時のテオフィリン使用の注意点 (2006年 04月 11日 09:48)
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 小児気管支喘息に汎用されてきたテオフィリンは薬物代謝酵素CYP1A2で代謝される。新生児、乳児期のCYP1A2の肝臓の単位蛋白量当たりの発現量の増加は、CYP分子種の中では最も遅いとされている。しかしながら、同時期の体重に占める肝臓重量の割合が成人にくらべ高い事より、テオフィリンについては、新生児ではきわめて代謝されがたく、投与量の約半分が未変化体として尿中排泄されるが、乳児期には成人の体重当たりのクリアランスの約2倍となるので注意が必要である。1) 一方、発熱時にはテオフィリンのクリアランスが低下するとの検討結果が報告されている。最近日本小児アレルギー学会がまとめた「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2005」でも発熱時のテオフィリン使用については注意が喚起されている。2,4)
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日本小児アレルギー学会は、「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2005」を平成17年11月に発刊した。その中で、「アミノフィリンの点滴静注は、けいれんなどの副作用が起こりうるので注意が必要である。特にけいれんや中枢神経系の疾患を合併している場合には使用を控える。テオフィリン徐放製剤内服中やテオフィリン・クリアランスを低下させる因子を伴う場合は、テオフィリン中毒を起こす恐れがあるので、可能であればテオフィリン血中濃度の測定を行い、過剰投与とならないよう慎重な投与が望まれる。」と記載されている。2)
 また、厚生労働省は、上記、ガイドラインをうけ、平成17年12月14日、日本製薬団体連合会安全性委員会宛にテオフィリン等(テオフィリン・アミノフィリン・コリンテオフィリン)の添付文書[重要な基本的注意]の項に「小児、特に乳幼児に投与する場合には、保護者等に対し、発熱時には一時減量あるいは中止するなどの対応を、あらかじめ指導しておくことが望ましい。」「小児では一般に自覚症状を訴える能力が劣るので、本剤の投与に際しては、保護者等に対し、患児の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には速やかに主治医に連絡するなどの適切な対応をするように注意を与えること。」を追記することを通知した。3)
それまでの添付文書には既に、慎重投与の項に、「乳児期にはテオフィリンクリアランスが一定していない。6カ月未満の乳児ではテオフィリンクリアランスが低く、テオフィリン血中濃度が上昇することがある。」との記載がみられる。
 有吉範高氏は、肝薬物代謝酵素の発育による変化を記した総説の中で、「テオフィリンは新生児ではきわめて代謝され難く、投与量の約半分が未変化体として尿中排泄されるが、体重あたりのクリアランスは生後肝代謝の亢進に伴い急激に上昇し、乳児期には成人のクリアランスの約2倍となり、その後は成人にかけて緩やかに減少した後は高齢者になるまでほぼ一定となることが示されている。したがって、テオフィリンの常用量は成人(10〜18mg/kg/day)より小児(15〜24mg/kg/day)で多い。」と述べている。この事をテオフィリンの主たる薬物代謝酵素であるCYP1A2の蛋白発現量をあわせて考え、有吉氏は、CYP1A2の蛋白発現量の年齢による増加率は、成人肝の主要CYP分子種の中で最も遅いと言われ、生後1年でも肝臓の単位蛋白量当たりでみると50%程度といわれている。従って、新生児期では、テオフィリンはきわめて代謝されがたい。しかしながら、体重に占める肝臓重量の割合が成人より数倍大きい乳児から幼児期にかけては酵素発現量の少なさを相殺し個体全体の体重当たりのクリアランスは成人より高くなることを理解しておく必要があると指摘している。1)
 また、渋谷正則氏は、発熱時のテオフィリンの一時減量あるいは中止するなどの対応について「小児期にみられる発熱の大半は何らかの気道感染症時に発生するが、気道感染症に基づく喘息発作は少なくない。この際に従来はテオフィリンを使用してきたが、以前から気道感染症に伴うテオフィリン・クリアランスの低下が周知の事実のように知られており、若干の報告もされている。しかしながら、統計学的有意差が認められていない報告もある。一方で、発熱の原因を気道感染症に限定して、テオフィリン・クリアランスを検討した結果では、いずれの病原体においても発熱を伴う感染では有意に低値であったとの報告がある。」4)と解説している。全体的にみて発熱時のテオフィリン投与については注意が必要と思われる。非発熱時の投与量を減量せずにそのまま投与した場合に、設定したテオフィリン濃度より高濃度になる事が考えられるが、その際のテオフィリン濃度がどの程度上昇するかは、クリアランス低下の程度で決定される。発熱時におけるテオフィリン・クリアランスの低下率は一定ではない。発熱によるテオフィリン薬物動態の変化とそれに続く血中濃度の変動によって、テオフィリンの副作用として最も重篤なけいれんが起こった可能性が指摘されたことにより、米国小児科学会では発熱時にはテオフィリン投与量を半分に減量することを推奨されている4)
 これらを背景に、先のガイドラインでは2)、小児気管支喘息の急性発作に対しては、「さらに併用薬、発熱、感染、食事などの影響もので、急性発作時の治療に際して血中濃度をモニターしながら使用することが望ましい」としている。さらに、2〜5歳の薬物療法プランには「テオフィリン情報製剤の使用に当たっては、特に発熱時には血中濃度上昇に伴う副作用に注意する」との注意書きが添えられた。
一方、渋谷氏は、乳児喘息長期管理におけるテオフィリン徐放製剤の定期内服の位置づけと留意点について、ガイドラインから引用し2)
「・中等症持続型(ステップ3)以上の患者において考慮される追加治療の1つである
・6ヵ月未満の児は原則としてテオフィリン徐放製剤による長期管理の対象とならない
・6ヵ月以上でも、てんかん熱性けいれんなどのけいれん性疾患を有する児には、原則として推奨されない
・発熱出現時には、一時減量あるいは中止するかどうかをあらかじめ指導しておくことが望ましい
・テオフィリン徐放製剤投与中は、テオフィリン・クリアランスを抑制して血中濃度を上昇させる薬物(エリスロマイシン、クラリスロマイシンなど)の併用には注意が必要である
・けいれん閾値を下げる可能性が報告されている中枢神経系への移行性の高いヒスタミンH1拮抗作用を主とする抗アレルギー薬との併用は、乳児喘息においては注意が必要であるかもしれない
・ 定期内服中の坐薬の使用は推奨できない」
と紹介している。4)
参考資料
1) 有吉範高:「肝薬物代謝酵素の発育による変化を理解する」;薬局57(2)175-190,2006
2) 日本小児アレルギー学会:「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2005」アブストラクト(2005.12.7);http://www.iscb.net/JSPACI/i-20051207.html
3)「使用上の注意」の改訂について:日本薬剤師会雑誌58(2)203-204,2006
4) 渋谷正則:「気管支喘息治療薬」;薬局57(2)279-286,2006
■ 遺伝子多型と薬物の副作用-グルクロン酸転移酵素(UGT)と塩酸イリノテカン- (2006年 04月 03日 22:40)
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抗がん剤塩酸イリノテカンの代謝について、@塩酸イリノテカンの活性代謝物であるSN-38 は、グルクロン酸転移酵素(UGT)により解毒される、AUGTの1分子種であるUGT1A1には遺伝子多型が認められ、UGT1A1*28では、グルクロン酸抱合活性が低下し、重篤な副作用(特に好中球減少等)のリスクが増加する、B人種間でUGT1A1の遺伝子多型の分布が異なる、C日本人では、UGT1A1*28 とUGT1A1*27又は UGT1A1*6のいずれかを併せ持つ場合も重篤な副作用が発現する可能性の高いことが報告されている。1)
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 医薬品・医療機器等安全性情報 No.219に参考資料として記載されている「ファーマコゲノミクスの展望」には、見出しの記載も含め以下のことが解説されている。1)
「ファーマコゲノミクスの利用例の一つとして、薬物動態に影響を及ぼす遺伝子多型を調べることにより、母集団の中で副作用のリスクが高い集団や薬効が現れにくい集団を特定しようとする取組みがなされている。遺伝子多型が薬物治療に影響を与える例として、次の2種類の遺伝的メカニズムがこれまでに報告されている。
1.薬物代謝酵素の遺伝子多型(チトクロームP450:CYP2C9,CYP2D6,CYP2C19,N-アセチル転移酵素:NAT2,UDP-グルクロン酸転移酵素:UGT1A1等)により、薬物の代謝速度が増加あるいは減少し、体内薬物濃度等が変化する場合。
2.薬物トランスポーターや薬物受容体等の遺伝子多型により、薬剤応答性や副作用発現に影響を及ぼす場合(例:多剤耐性遺伝子(MDR1)、β2受容体(β2AR)。
 特に上記1のうち、抗がん剤塩酸イリノテカンについては、@塩酸イリノテカンの活性代謝物であるSN-38 は、グルクロン酸転移酵素(UGT)により解毒されること、AUGTの一分子種であるUGT1A1には遺伝子多型が認められ、UGT1A1*28では、グルクロン酸抱合活性が低下し、重篤な副作用(特に好中球減少等)のリスクが増加すること、B人種間でUGT1A1の遺伝子多型の分布が異なること、C日本人では、UGT1A1*28 とUGT1A1*27又は UGT1A1*6のいずれかを併せ持つ場合も重篤な副作用が発現する可能性の高いことなどが報告されている。
 米国FDAでは、2005年6月に塩酸イリノテカンの添付文書について、UGT1A1*28をホモ接合体で有する患者では好中球減少のリスクが高いため、初回投与量の減量を考慮すべき旨を追記するなど改訂が行われたところである。我が国ではUGT1A1の遺伝子多型を調べる検査薬は研究用として販売されている段階であり、厚生労働省では、その開発、実用化への取組みを促進するよう関係企業に要請したところである。
 現在、遺伝子多型と薬剤対応性に関する知見が蓄積されており、今後、より有効性・安全性の高い薬物治療の実現に向けた方策の一つとして、ファーマコゲノミクスの利用のより一層の取組みが期待される。特に、副作用のリスク因子を持つ患者を事前に同定することができれば、予測・予防型の安全対策に資するものと考えられる。」
 この参考資料には、
表1 薬物代謝酵素の遺伝子多型と薬剤応答の例
 表2 薬物トランスポーター及び薬物受容体の遺伝子多型と薬剤応答の例
も記載されている。詳細は「医薬品・医療機器等安全性情報 No.219」を参照下さい。
 患者さんの服薬時における安全管理に、医薬品の薬物動態に係る遺伝子多型情報の重要性が増してくることを感じさせます。
 UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)の代謝に関与する分子種について、有吉範高氏は「肝薬物代謝酵素の発育による変化を理解する」2) の中で紹介しています。概要は次のとおりです。
「代表的UGT分子種とその基質薬物および化合物
 分子種:1A1
 内因性基質:ビリルビン
 外因性基質:SN-38(イリノテカン代謝物)、エチニルエストラジオール
 分子種:1A3
 内因性基質:エストロン
 外因性基質:ノルブプレノルフィン
 分子種:1A4
 内因性基質:アンドロスタンジオール
 外因性基質:イミプラミン、アミトリプチリン
 分子種:1A6
 内因性基質:?
 外因性基質:アセトアミノフェン、ナプロキセン、1-ナフトール、2-ナフトール
 分子種:1A9
 内因性基質:エストロン
 外因性基質:プロポフォール、アセトアミノフェン(ただし、UGT1A6活性の約1%)
 分子種:1A10
 内因性基質:?
 外因性基質:ミコフェノール酸
 分子種:2B4
 内因性基質:ヒオデオキシコール酸
 外因性基質:?
 分子種:2B7
 内因性基質:アンドロステロン、エピテストステロン
 外因性基質:モルヒネ、コデイン、ブプレノルフィン、ナロキソン(およびほかのモルフィナン誘導体)、ロラゼパム、NSAIDs(ナプロキセン、サリチル酸、ケトプロフェン、イブプロフェン)、バルプロ酸、メントール
 分子種:2B15
 内因性基質:アンドロゲン(ただし、VmaxはUGT2B17活性の約1%)
 外因性基質:オイゲノール、4-ヒドロキシ-ビフェニール
 分子種:2B17
 内因性基質:アンドロステロン、テストステロン、ジヒドロテストステロン
 外因性基質:
(文献 de Wildt SN et alより改変)
 クロラムフェニコール、ジドブジンやリトドリンのようにグルクロン酸抱合が代謝の主要な経路の1つでありながら、その抱合反応を触媒するUGT分子種が特定されていない医薬品も少なくない。UGT分子種ごとの酵素活性の発育による変化に関する全体像の把握にはまだ時間を要する。」2)
参考文献
1)厚生労働省:ファーマコゲノミクスの展望.医薬品・医療機器等安全性情報.No.219,2005-11月
2)有吉範高:肝薬物代謝酵素の発育による変化を理解する.薬局57(2)175-190,2006
■ 医薬品EPA製剤(イコサペント酸エチル)の臨床評価と健康食品素材のEPA (2006年 03月 24日 10:32)
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EPA(イコサペント酸エチル)製剤とHMG-CoA還元酵素阻害薬との5年間併用による1次予防、2次予防(安定した虚血性心疾患合併例)についての大規模試験「JELIS:Japan EPA Lipid Intervention Study」の結果が、米国心臓協会(AHA)の学術集会で発表された。1) 両者ともEPA製剤投与群において相対リスクの減少が報告された。また、第2回血管バイオメカニクス研究会では、EPA製剤の投与により、動脈硬化の指標であるCAVIが低下することが報告された。2)
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 (1)JELIS試験は高脂血症患者を対象にHMG-CoA還元酵素阻害薬での治療をベースとし、EPA製剤イコサペント酸エチル投与群(併用)と非投与群の無作為比較試験であり、主要評価指標として、突然心臓死、致死性および非致死性心筋梗塞等の冠動脈イベントの発症抑制をみたもの。登録総数18,645例(イコサペント酸エチル投与群:9,326例、イコサペント酸エチル非投与群:9,316例)、全例に、HMG-CoA還元酵素阻害薬を投与し、イコサペント酸エチル投与群ではそれに加え、1,800mgのイコサペント酸エチルを併用。登録症例の内訳は1次予防14,981例、2次予防(安定した虚血性心疾患合併例)3,664例。
 結果、主要冠動脈イベントの発症率はイコサペント酸エチル投与群で2.8%と、非投与群3.5%に比して有意に低く、イコサペント酸エチル投与群における相対リスクは19%の減少を示した。また、2次予防の場合でも、主要冠動脈イベントの発症率は、イコサペント酸エチル投与群に有意な減少効果が認められ(イコサペント酸エチル投与群8.7%、非投与群10.7%)、相対リスクは19%減少した。1)
(注)JELIS:Japan EPA Lipid Intervention Study
 JELIS試験の結果は、今後、更に詳細な解析結果が報告されてくるものと思われる。
(2)国立病院機構京都医療センター・臨床研究センター・代謝研究部・臨床代謝栄養研究室長の佐藤哲子先生らは、肥満外来を受診したメタボリックシンドロームを含む肥満症患者でCAVIを測定し、これまでに指摘されている危険因子やEPA製剤の治療効果などとの関係を検討している。EPA製剤イコサペント酸エチル服用群(22人)と非服用群(22人)で3カ月後に比較すると、服用群では投与前に比べ、中性脂肪やLDLコレステロールといった脂質値の改善、血中レプチン/アディポネクチン比の低下などとともに、CAVIの有意な低下が認められた。一方、非服用群ではCAVIの低下は認められなかった。2)
(注)CAVI(Cardio ankle vascular index:キャビィ;心臓足首血管指数)は血管のスティフネス=動脈の硬さの程度をあらわす指数。手首や首筋で触れる脈は、血液が心臓から送り出された際の振動が、波(脈波)として血管壁を伝わったもの。脈波の伝わる速さは、血管が硬いほど早くなる。CAVIの検査では、血圧測定用のカフを上腕と足首に巻き、胸の心音を探知するマイクを装着。心臓から足首までの距離を測り、心臓と足首での脈波の時間差から、まず脈波速度を割り出し、コンピューターが血圧を加味して数値を計算する。検査は数分間で終わる。
得られた数値は血圧の変動に依存しない動脈硬化指標であり、血管個体固有の硬さを示す指標。数値は年齢とともに上昇することから、一般的な健康診断で、同年代の平均に比べた「血管年齢測定」にCAVIが利用されるようになってきている。3)4)5)

 生活習慣病が怖いのは動脈硬化の進展を促進し、最終的に脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な疾患を発症させることによる。国では2005年度から、「健康フロンティア戦略」を打ち出し新しい生活習慣病の予防対策を進めている。6)

 「日本人の栄養所要量−食事摂取基準−策定検討会」が取りまとめた「日本人の食事摂取基準(2005年版)」によれば、n-3系脂肪酸(EPA,DHAなど)の1日摂取目標量は男性(18〜69歳)の場合2.6−2.9g以上/日、女性(18〜69歳)では2.2−2.5g以上/日、とされている。7) こういった食事摂取基準をうけ、n-3系脂肪酸(EPA,DHAなど)の健康食品が市販されているが、成分はEPAとDHAの配合となっている。
また成分としてのEPAはエイコサペントエン酸で精製魚油が使われている。
さらに、これらの製品に記載されているエイコサペントエン酸の1日摂取量はエイコサペントエン酸として100mg前後、特定保健用食品になっている1品目のみがエイコサペントエン酸として1日600mgが目安量となっており、摂取をする上での注意事項として「本品は高脂血症の治療薬及び予防薬ではありません。治療中の方は、医師にご相談下さい。」との記載がある。8)
 独立行政法人国立健康栄養研究所のホームページに健康食品の素材としての「EPA」について次のように記載されている。9)
「名称:EPA(エイコサペンタエン酸)[英]Eicosapentaenoic acid [学名]
 EPAは、炭素が20、不飽和結合が5個のn-3系の直鎖不飽和脂肪酸で、イワシなどの青魚の脂肪に含まれる必須脂肪酸の一つである。魚やアザラシを常食するイヌイットでは、脂肪摂取量が多いにもかかわらず血栓症や心疾患が非常に少ないことから注目された栄養素である。俗に「動脈硬化、高脂血症、痴呆などの予防や改善によい」、「アトピー、アレルギー等によい」等といわれている。有効性については、冠状動脈疾患に対してヒトでの有効性が示唆されている。「中性脂肪が気になる方の食品」という表示で、EPAを関与成分とした特定保健用食品が許可されている。安全性については、適切に用いれば経口摂取でおそらく安全と思われるが、大量摂取は危険性が示唆されている。EPA、DHAを含む魚油では、副作用としてげっぷ、吐き気、鼻血、軟便が報告されている。妊娠中・授乳中の安全性については十分なデータがないため、魚などの食品として摂取する以外の使用は避けることとされている。EPAを多く含む食品としてはさば、いわし、まぐろなどがある。
法規・制度:「非医薬品」に区分される。特定保健用食品の成分となっている。」

 以上のことから、医薬品としてのEPA製剤と健康食品としてのEPA製剤とは異なるものとして理解し、一方、安全性については併用される可能性も考慮し、総量としての留意が必要と思われる。
参考
(1)医薬品としてのEPA製剤
 成分 (一般名)イコサペント酸エチル
    (分子量)330.5
 製品 エパデールS300/エパデールS600/エパデールS900 他23製品
 【効能・効果】【用法・用量】
・閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善
1回600mgを1日3回毎食後に経口投与
・高脂血症
1回600mgを1日3回毎食後に経口投与、トリグリセリドの異常を呈する場合、その程度により1回900mgを1日3
回まで
(2)健康食品及び特定保健用食品に用いられるEPA製品
 成分(学名)エイコサペンタエン酸 
   (分子量)302.46
 健康食品におけるEPAは精製魚油が用いられ、EPA+DHAの製品が多い。EPAの1日用量は100mg前後との記載がみ
られる。
 特定保健用食品として許可されているEPA製品は精製魚油が用いられ、「中性脂肪が気になる方の食品」とい
う表示で、1日用量は600mgとなっている。

参考資料
1)横山光宏:「JELIS結果発表」;Medical Tribune 2005年12月号特別企画より:日薬誌58(1);139(2006)
2)佐藤哲子:日経CME2006年1月2頁
3)原田昌明:Heart Net No.19,4(2004-8月) 
4)血管年齢がわかる:http://plaza.rakuten.co.jp/wellness21jp/diary/200403180000
5)CAVI:http://www.fukuda.co.jp/products/cavi.html
6)「生活習慣病対策を強化 健康づくりを国民運動に」:薬事日報 平成18年2月24日
7)「日本人の栄養所要量−食事摂取基準−策定検討会」:日本人の食事摂取基準(2005年版)7頁(医歯薬出版株式会社)
8)特定保健用食品許可(承認)品目一覧:許可番号469番
9)健康食品の安全性・有効性情報:独立行政法人国立健康栄養研究所ホームページ
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail31.html

■ 吸入式インスリンの販売を世界で初めて米国食品医薬品局(FDA)が認可 (2006年 03月 07日 13:46)
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 米国食品医薬品局(FDA)が1月27日、米国ファイザー社の吸入式インスリン「エクスベラ」の販売を認可した、と1月29日の新聞各紙やホームぺージ等に報道されました。
平成18年1月29日付 朝日新聞(共同)は「エクスベラは遺伝子組み換え技術で製造されたヒトインスリンの粉末(insulin human[rDNA origin]Inhalation Powder)。眼鏡ケース大の専用吸入器を使って口から吸い込む。効果が表れるのが早いため、即効型のインスリンの注射の代わりになるが、作用が遅いタイプのインスリンも必要な患者さんには注射と併用になる。」と報道しています。1)
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 薬事日報(平成18年2月20日付)の「アメリカ医薬品情報」(沖 愛士)には、エクスベラについて次のように解説されています。2)
「エクスベラの臨床研究は、1型および2型の糖尿病患者約2,500人を対象に実施された。エクスベラの血中インスリン濃度は通常の注射型インスリンに比べてピークに達する時間が早かった。通常の注射用インスリンは105分(範囲60〜240分)でピーク量に達したが、エクスベラは49分(範囲30〜90分)でピークに達した。
 1型糖尿病患者における臨床研究は、エクスベラが食事と一緒に使用する短期作用型インスリンの代わりに長期作用型インスリンと共に使用できることを示した。
2型糖尿病患者に対しては、エクスベラ単独、エクスベラと血糖を抑える非インスリン型経口薬(メトフォルミンなど)との併用、またはエクスベラと長期作用型インスリンとの併用による臨床研究が実施された。その結果、エクスベラは2型糖尿病に対して、単独、または経口薬もしくは長期作用型インスリンとの組み合わせで使用できることが証明された。
エクスベラ処方には、FDA承認の患者用情報を含む「投薬ガイド」が付随する。薬剤師は製品と共に投薬ガイドを配布しなければならない。患者の使用法順守が製品の効果に対して不可欠である。患者は、投薬ガイドを完全に読み、疑問があれば医師に相談することを勧める。エクスベラはすべてのインスリン製剤と同様に低血糖を起こすので、患者は血糖を定期的にモニターすべきである。
その他の副作用として、咳、息切れ、喉の痛み、口の乾きなどがある。
喫煙者または最近禁煙した人(6カ月以内)はエクスベラを使用すべきではない。エクスベラの使用によって、喫煙者はインスリンの全身的な暴露が非喫煙者の2〜5倍に高まると考えられるからである。エクスベラの使用は喘息、気管支炎または肺気腫の患者に対して推奨できない。エクスベラ治療開始前には肺機能の基礎検査を行い、その後6〜12カ月ごとに検査を繰り返すことが必要である。
申請者は市販後もエクスベラの安全性を継続して確認し、隠れた肺疾患をもつ患者に対するエクスベラの効果と安全性の問題をさらに徹底して調べるため、長期間研究の実施を約束した。」
同様の記事は、ファイザーニュース3)、ファイザーニュースFacts About Exubera4)にも報告されています。
今回認可されたエクスベラはファイザー社の製造だが、イーライリリー社、コスファーマシューティカル社、マンカインド社、ノボ・ノルディスク社など各社が同形態の薬剤の開発・承認申請の準備を進めているという。5)

 なお、ファイザー(株)のホームページから、同社の開発品目を調べてみましたが、2月21日現在、開発品目一覧には、エクスベラの記載は見られませんでした。6)
国内での開発はこれからと思われます。

参考資料
1)「吸入式インスリン認可 注射なし、米で販売へ」朝日新聞(共同) 平成18年1月29日
2)「アメリカ医薬品情報 初の吸入型インスリンを承認」沖 愛士:薬事日報 平成18年2月20日
3)ファイザーニュース:
http://www.pfizer.com/pfizer/are/news_releases/2006pr/mn_2006_0127a.jsp
4)ファイザーニュースFacts About Exubera:
http://www.pfizer.com/pfizer/download/exubera_release_faq.pdf
5)糖尿病ネットワーク アメリカの糖尿病最前線:
http://www.dm-net.co.jp/healthdayjapan/2006/01/fdaexubera.html
6)ファイザー株式会社−研究・臨床開発−臨床開発:
http://www.pfizer.co.jp/pfizer/development/clinical_development/list/index.html
■ 患者さん向けの医療用医薬品情報がホームページで  (2006年 02月 28日 10:33)
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くすりの適正使用協議会が副作用情報を拡充した「くすりのしおり」新バージョンを5月には内服薬と外用薬について、提供を開始できるとの見通しを明らかにしました(薬事日報:平成18年1月30日)。また、医薬品医療機器総合機構は平成18年1月31日付で、各製薬企業が作成した「患者向け医薬品ガイド」を同機構のホームページに掲載した、と報道されています(薬事日報:平成18年2月6日)。
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 両方のホームページでA社の医薬品名○○○○錠○mgを検索してみました。
(1)「医薬品医療機器情報提供ホームページ」(www.info.pmda.go.jp)を立ち上げ、「患者向医薬品ガイド」の窓をクリックしますと、「患者向け医薬品ガイド」が表示されます。平成18年2月現在のホームページには、経口糖尿病薬の情報のみが掲示されていますが、今後、抗リウマチ薬、喘息治療薬、血液凝固阻止剤及び抗血小板剤のガイドを公表予定とのことです。一覧表として表示されている薬の中から(例)として○○○○錠○mgを選んでクリックするすると、
「患者向医薬品ガイド」が表示され、次のような項目で解説されています。
【この薬は?】
【この薬の効果は?】
【この薬を使う前に、確認すべきことは?】
【この薬の使い方は?】
【この薬の使用中に気をつけなければならないことは?】
【副作用は?】(注)副作用名にはフリガナが付けられています。
【この薬の形は?】
【この薬に含まれているのは?】(注)有効成分と添加物が記載されています。
【その他】
【この薬についてのお問い合わせ先は?】
等が患者さんにわかりやすい言葉で、詳細に記載されています。

(2)「くすりの適正使用協議会」が提供しているホームページ「くすりの情報ステーション」(http://www.rad-ar.or.jp/)を立ち上げますと「くすりの情報ステーション」の画面があらわれますが、その画面の左側中段に「調べてみようくすりのしおり、くすりの名前は?」の窓にくすりの名前「○○○○錠○mg」を入力し「調べる」をクリックしますと、求める
「○○○○錠○mg」の記事が表示され
●この薬の作用と効果について
●次のような方は使う前に必ず担当の医師と薬剤師に伝えて下さい。
●用法・用量(この薬の使い方)
●生活上の注意
●この薬を使ったあと気を付けていただくこと(副作用)
(注)この欄には医療担当者の記入欄も設けられています。
●保管方法その他
(注)この欄にも医療担当者の記入欄が設けられています。
●医療担当者記入欄
という構成になっていますが、全体にみて医療担当者がこれを使用して患者さんへの情報提供をするのを意識して作成されているように思われます。
特に「●この薬を使ったあと気を付けていただくこと(副作用)」の項において、
◆次のような症状に気付いたら使用をやめて、すぐに主治医に相談して下さい。
(例)低血糖症状:強い異常な空腹感、冷や汗が出る、動悸がする、手足のふるえ、めまい(ふらつき)、目がちらつく、脱力感(力の抜けた感じ)、頭痛・集中力低下(ぼんやりする)、いつもと違う異常な行動をとる、意識がなくなるなど。
【尚、低血糖症状に気付いたら、砂糖、飴玉。ジュースなどを、α−グルコシダーゼ阻害剤(グルコバイ、ベイスン)と併用している場合はブドウ糖をとってから主治医に相談して下さい。】
その他の症状:出血しやすい(歯ぐきの出血、鼻血など)、のどの痛み、発熱、体がだるい、食欲がない、皮膚や白目が黄色くなる。
◇次のような症状に気付いたら、なるべく早めに主治医に相談して下さい。
発しん、かゆみ、吐き気がする・・・・・
という風に、「医薬品医療機器情報提供ホームページ」と同様に患者さんにわかりやすい言葉で、ていねいに記載されています。
 両者のホームページにおける記載はともに、副作用防止に重点をおき、詳細に、丁寧に記述されています。
■ これだけは抑えたい!重大な副作用 (2006年 02月 21日 10:47)
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日経ドラッグインフォーメーションNo.99,11,2006-1に「これだけは押さえたい!重大な副作用 初期症状を伝えて重篤化を回避せよ」と題して、重症型薬疹、薬剤性肝障害、アナフィラキシー、薬剤性腎障害の初期症状が解説されています。
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「これだけは押さえたい!重大な副作用 初期症状を伝えて重篤化を回避せよ」(日経ドラッグインフォーメーションNo.99,11,2006-1)には、薬剤による重篤な副作用につながる初期症状について詳細に解説されています。その概要は次のとおりです。
(1)重症型薬疹
 重症型の薬疹については、服薬指導の際に、きちんと初期症状と初期対応を伝えておきたい。 その代表例は、スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群:SJS;Stevens-Johnson Syndrome)と中毒性表皮壊死症(ライエル症候群:Lyell syndrome、
中毒性表皮壊死症:TEN;Toxic Epidermal necrosis)。
◆スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群、SJS)
 SJSでは、様々な大きさの、じくじくして盛り上がった赤い皮疹が、全身に現れる。唇や目の結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部が、びらんを呈するのも特徴。多くは発熱を伴い、進行すると、ひどい火傷を負ったときのように皮膚の表面がはがれてくる。
◆中毒性表皮壊死症(ライエル症候群、TEN)
 副作用として報告された当初は「全身に及ぶ重症熱傷に似た皮膚障害」とされたが、最初からこうした全身に及ぶ重症熱傷に似た皮膚障害を発症するのは1割くらいで、9割は様々な大きさの、じくじくして盛り上がった赤い皮疹からSJSを経てTENへと移行する。

◎薬疹の8割はアレルギー性で、一般に薬剤の服用を開始してから1〜2週間で発症することが多い。
◎「唇など粘膜部のびらんは、SJSやTENに特徴的な症状。全身に様々な大きさの紅斑が出て、唇などがただれたようになったら、一刻も早く、入院治療が可能な皮膚科を受診するよう勧めてほしい」(畑三恵子氏)

◆薬剤性過敏症症候群(DIHS;Drug-induced hypersensitivity syndrome)
 薬剤性過敏症症候群(DIHS)は、薬剤の服用を開始してから2〜6週間後に生じる副作用。高熱とともに、様々の大きさの、平らあるいは盛り上がった赤い湿疹が、何かをばらまいたような形で全身に現れる。進行すると、全身の皮膚が腫れて赤くなり、鱗屑(りんせつ=角質がはがれて皮膚に付着した状態)を伴う紅皮症様症状となる。

◎「初めのうちは、様々の大きさの、平らあるいは盛り上がった赤い湿疹が、何かをばらまいたような形で全身に現れ、これに加え、顔が腫れぼったい感じになることが多い。」(福田英三氏)
◎特徴的なのは、原因薬剤を中止してもしばらくは病状が進行し続けること、やや軽快したころ(2〜3週間後)に再び病勢がぶり返すこと。DIHSの臨床経過の前半は薬剤アレルギー、後半はヒトヘルペスウイルス−6の再活性化と考えられている。
◎DIHSの発症報告がある薬剤は、
・抗てんかん剤のカルバマゼピン(商品名:テグレトールほか)
・高尿酸血症治療薬のアロプリノール(商品名:ザイロリックほか)
・不整脈・糖尿病性神経障害治療薬の塩酸メキシレチン(商品名:メキシチール)
・フェノバルビタール、フェニトイン、サラゾスルファピリジン、ジアフェニスルホン、ゾニサミドなど
「好発薬剤がある程度限定されているので、これらの薬剤が処方されている患者には、服用開始から2〜6週間して現れる副作用があることを確実に伝えるようにしてほしい」(福田英三氏)

(2)薬剤性肝障害
 薬剤性肝障害は、障害される部位が肝細胞か胆管かで、臨床像がかなり異なってくる。
◆薬剤性肝障害「肝炎型」
 肝細胞が障害を受ける「肝炎型」の薬剤性肝障害では、急性肝炎と同様の症状が現れる。服薬から2週間以内(既感作の場合)に、まず、体が異様にだるくなり、食欲がなくなる。吐き気・嘔吐や、発熱、発疹、関節の痛みなどを合併することも多い。これらは、肝機能が急速に低下して、老廃物などが十分に解毒されなくなったために生じる症状。検査値では、肝細胞の障害度を反映するアラニントランスフェラーゼ(ALT、GPTとも呼ぶ)が高値となる。
◆薬剤性肝障害「胆汁うっ滞型」
 肝臓の毛細血管が傷害されて起こる「胆汁うっ滞型」の薬剤性肝障害の場合は、胆管が詰まって起こる閉塞性黄疸と似た症状を示す。
 服薬から3カ月以内(既感作の場合)に初期症状として黄疸と褐色尿。猛烈な体のかゆみを伴うことが多い。検査値では、アルカリフォスファターゼ(ALP)などの胆管系酵素が高値を示す。
 黄疸の症状は、顔や腕、胸などの皮膚が黄色みを帯びることだが、一番わかりやすいのが白目(眼球結膜)の黄染。

(3)アナフィラキシー
 薬剤性アナフィラキシーは、薬剤に対する即時型、全身性のアレルギー反応。注射薬なら投与後30秒から10分、経口薬でも服用後15分から1時間ほどで多彩な症状がつぎつぎに出現する。
 アナフィラキシーの特徴的な症状の一つとして、皮膚に現れる急性のじんま疹。体のあちこちに、蚊に刺されたような膨らみ(膨疹)ができ、見ている間に広がって「地図状の皮膚浮腫」を呈する。こうした皮膚粘膜症状のほか、ショックや血圧低下などの循環器症状や、咳・気道狭窄などの呼吸器症状、下痢や腹痛などの消化器症状も、アナフィラキシーの際に生じる頻度が高い。
◎具体的には、「じんま疹が出て息苦しくなり、意識がもうろうとして立っていられない。こんな症状がでたら、アナフィラキシーが疑われる」(山口正雄氏)
 患者の服用薬情報は、救命処置時に使う薬剤を選択する上でも重要になる。例えばβ遮断剤服用者の場合、β2刺激剤を投与しても気管支拡張効果が得られない。万一のときには、薬袋やお薬手帳を救急隊員に渡すよう、患者や家族に伝えておく。
◎次のような患者にはアナフィラキシーに関する重点的な情報提供を
 ・シェーグレン症候群患者
  薬剤性アナフィラキシーの発症率が高い
 ・アナフィラキシーの家族歴がある
  薬剤性アナフィラキシーの発症率が高い
 ・喘息患者
  薬剤性アナフィラキシーを発症した場合、重篤化しやすい
 ・β遮断剤の服用者
  アナフィラキシーにより気道閉塞を起こした場合、β2刺激剤が無効

(4)薬剤性腎障害
 薬剤性腎障害、中でも急性腎不全は、敗血症や呼吸不全など命にかかわる合併症を起こしやすい重大な副作用。特に注意が必要なのが、腎臓の血流低下によって起こる急性腎不全(腎前性腎不全)。
◎腎前性腎不全を起こしやすい薬剤は、
 ・非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)
  腎臓は脱水などにより循環血液量が減ると、血管拡張作用を持つプロスタグランジンを産生して血流量を保とうとするが、NSAIDsの服用下ではプロスタグランジンの合成が抑制されてしまう。そのため、腎機能に余力がない高齢者では、脱水などを引き金として、NSAIDsの服用中に急性腎不全を起こしやすくなる。
 ・アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシンU受容体拮抗剤(ARB)
  アンジオテンシンUには、輸出細動脈を選択的に収縮させて腎血流量を増す作用があり、高齢者では産生が亢進していることが多い。ACE阻害剤などの服用でアンジオテンシンUの作用が抑制されると、腎血流量を十分保てなくなり、急性腎不全に陥る。
 ◎加齢に伴う腎機能の低下率は、筋肉の低下率とほぼ比例する。「筋肉量が少ない、やせて小柄なおじいちゃん、おばあちゃんには、特に注意を払ってほしい」(山本陵平氏)。
 ◎NSAIDsやACE阻害剤などを服用している高齢者には、毎日決まった時間に体重を測定してもらい、1週間に2〜3kgも体重が増えるようなら、薬の継続可否を決めるため、数日内に主治医を受診して腎機能を調べてもらうよう勧めてほしい」(山本陵平氏)。

「患者に薬を渡す薬剤師こそが、重大な副作用の「臨床像」を把握して、患者に副作用の重大性を認識させ、対処法をしっかり伝えなければならない」との本記事の筆者、内山郁子氏の言葉に共感させられます。
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